だけど、そんなことが口に出来るはずもないし。

「そんなに心細いなら、初日はついて行くよ。それに、実際の撮影の時も側にいるから」

「はい。ありがとうございます」

『側にいる』

その言葉が、心にゆっくりと広がっていく。

いざという時には、やっぱり編集長は頼もしい。

ちょっと誤解をされたけれど、今はこれでいっか…。

「いくらなんでも、ぶっつけ本番ってわけにはいかないから、メイクの練習をしたいらしいんだ。平瀬、明日の午後は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。特別急ぎの仕事もないですし」

手帳を出しながら確認する。

悲しいくらいに予定がスカスカな手帳だ。

「じゃあ、明日の13時にハーティーの本社に行こう」

「本社ですか!?」

「そうだよ。そんなに驚かなくてもいいだろ?」

「驚きますよ。てっきり、百貨店のコーナーだと思ってたので」

やっぱり、こういうところも編集長らしい。

行ったこともない他社の本社に、わたし一人を行かせようとしてたなんて。