「あ、香乃子お帰り」

「ただいま、弥生。今日は編集長に誘われて、お昼を一緒に行ったんだよ」

余韻冷めやらぬ間に報告をすると、弥生は辺りを見回した後、わたしに耳打ちをしてきた。

「編集長と一緒にお昼なんて楽しいの?」

「楽しいよ。今日なんて、おごってもらっちゃったし」

なんて、もちろんそれが楽しかったわけじゃない。

好きな人との時間なら、何だって楽しいに決まってる。

不満げな顔を向けると、弥生は「へぇ〜」と呟いた。

どうやら、編集長との時間を『楽しい』と言うことが理解出来ないらしい。

「まあ、香乃子には楽しいか。わたしなら、誘われたら絶対に拒否るな。編集長とお昼なんて」

「オレと昼がそんなにイヤか?」

「へ、編集長!?」

突然、背後から現れた編集長に、弥生は腰を抜かしそうになっている。

さすがに、悪口を本人に聞かれるのは気まずいらしい。

そしてわたしは、吹き出しそうになるのを抑えていた。

そんなわたしたちに編集長は、お得意の感じの悪い視線を向けて、ぶっきらぼうに言い放ったのだった。

「休憩終わったら会議だから、準備しとけよ」