「一体何があったん?佐倉さんが理由も無しに人に手を上げる人やとは思えへん。しかも佐倉さんは格闘技全ての有段者やろ?だから人を守るためにしか手を上げへんって知ってるし…

先生に話してくれへん?」

「…」

生徒指導室のドアにこっそり耳を当てて盗み聞きしてる俺。

…と園田。

(お、大神くんがこんなのしてるなんて珍しいね…)

(…気になるんだよ。それより園田、大丈夫か?)

(うん。舞ちゃんが守ってくれたから。

アタシはいつも舞ちゃんに迷惑かけてばっかだぁ…)

(佐倉は、迷惑だなんて思ってないと思うけど。)

(…へ?)

(勘だよ、勘!)

(そ、そっか)

(佐倉何も言わねぇな)

(舞ちゃん…)

「佐倉さん、天野くんが何かしたん?」

「別に?天野く…天野はなんもしてないけど」

「じゃぁなんでっ…」

「天野にはムカついてたんだよ」

「だからって佐倉さんはそんな事せぇへんやな、そうやろ?」

「出会ってまだ1ヶ月も経ってないんだよ?そんなアンタに何がわかんの?」

「佐倉さん…」

「押し付けんなよ、アンタらの優等生像をさ。迷惑なんだよ」

(このままじゃ舞ちゃんが悪者になっちゃう!ちょっと大神くん、行ってくる!)

園田が立ち上がろうとするのを慌てて止める。

(待てよ、今ココでお前が出て行ったら佐倉が隠した事が全て水の泡だ)

(でも…)

(あいつなら大丈夫だって)

(うん…)

「………じゃぁ佐倉さんは理由も無しに天野を殴ろうとしたというのか?」

「平手打ちしたけど」

「なっ!…………………………………」

「………………これでわかったでしょ?

…私は、平気でこんな事しちゃうような人間なんだって」

カツカツカツ…

(ヤベッ、出てくる!隠れんぞ!)

(隠れるって何処に⁈)

俺は辺りを見回す。目に飛び込んできたのは空っぽの掃除ロッカー。

(そこ!そこの掃除ロッカー!)

(え⁉︎)

音を立てないように気をつけながら開け、園田を抱き締めるような形でロッカーに入る。

(お、大神くん!)

(シーッ、今は黙って)

「佐倉…三日間の自宅謹慎の処分を与える」

「…軽過ぎね?」

佐倉の自虐気味に笑う声。扉を閉める音。佐倉が教室に向かう足音。

(な、なぁ、足音こっちに近づいて来てね?)

(う、うん…)

けど足音は無事通り過ぎた。

そのしばらく後に先生の足音。

もう誰も通らないのを確認してから外に出た。

「あのっ!大神くん、近い!」

「ん?あぁ、ゴメン」

園田が慌てた様子で俺の腕の中から抜け出す。

そこで気付いたのは園田の顔が赤い事。

「あれ?園田、顔赤いけど。中暑かったもんなぁ、大丈夫?」

「うぇっ⁉︎お、大神くんがロッカーの中で抱き締めてる的な事するから…」

「ゴメン、狭かったから…」

「も、もういいよこの話は!

それよりなんでこのロッカーが空っぽだってわかったの?」

「あぁ、俺掃除当番でこの廊下担当した事あるんだよ」

「へぇー」

「へぇー美希と大神くんロッカーの中で抱き締めあってたの」

「佐倉!」

「舞ちゃん!…いつから居たの?」

「中で抱き締めてる的な事するから…ってとこから」

「すんごい最初じゃん!」

「あれ、佐倉早退?」

ココで初めて佐倉が鞄を持ってるのに気付く。

「ん?あぁ…明日から三日間自宅謹慎だと。

ゴメンね美希、守るって言ったのに…」

「うぅん、アタシ強くなる!」

「美希は強いよ、大丈夫。

大神くん」

「ん?」

いきなり名前を呼ばれ内心驚きながらも返事をする。

「私がいない間、美希を守ってください」

ペコリ、と頭まで下げた。

「わかった!わかったから頭上げろ!」

「それと、学校では話しかけないでね、私一匹狼になってやる!

…だから一匹大神の大神くんなら話しかけられてもイイけどね」

「話しかけてやるよ、寂しいんだろ?」

「馬鹿なの?」

「ご、ごめん!」

俺が慌てて言うと佐倉はフッと微笑み階段を降りて行った。