その日、遥香はいつも通りに授業を受け、いつも通りにお昼を食べていた。

たが、ここ最近の遥香はどこか落ち着かなく、いつもに増してうるさい。

「だーーーー気になる気になる気になるー!!」

「うっさい遥香!!」

隣でうるさく手足をじたばたさせ、まるで幼い子供のようにしている遥香に、京は先程から怒鳴り続けている。

遥香が駄々をこねているのにも理由があった。

遥香は一週間ほど前に出会った後輩のことを、まだ忘れらずにいた。

名前を聞けば良かったなど、先輩として大人らしく礼儀良く振る舞うべきだったか...等、後悔ばかり口にしていた。

その最近の遥香の様子を見て、我慢の限界か、隼仁は自分の席を立ち上がり、遥香と京の前に立った。

「おい」

「げっ...天霧じゃん...」

いつまでも口を開かない隼仁を見て、遥香と京はお互いに顔を合わせる。

そして、やっと口を開いたと思ったら...

「お前最近ピーピーうるせえよ。なんだ?話聞いてたけどその、後輩?が...お前は...」

暴言と、その後に続けようとした言葉を一瞬、言うか躊躇うかのようにして、遥香から目を逸らし、意を決したような顔をし、口にする。

「お前さ、その後輩のこと好きなんだろ...?」

「え...?」

隼仁の言葉に、しばらく唖然とするが、数秒たったところで、遥香は顔を赤くしながらも全力で否定した。

「違う違う!!た、たださ!せめて名前だけでも聞きたかっただけなの!!」

「本当に...それだけかよ?」

「もっ...好きなわけ無いじゃん!後輩だし!一日何度かしか会ってない子を好きになんて...」

「嘘つけ一目惚れだろ?!」

隼仁がそこまで言ったところで、ずっと黙っていた京が口を開く。

「隼仁。遥香が好きじゃないって言ってるんだからいいじゃない。」

「...」

「自分の気持ちは、自分が一番分かってるわよ。...ね?遥香」

「う...うん。」

「だよな...悪い」

そう言って、隼仁はどこか気まずそうに俯きながら教室を出て行った。

少し教室が静まり返るが、すぐに元通りになり、ざわつき始める。

「大丈夫?遥香」

「うん...大丈夫大丈夫」

「...そ。ならいいわ。」

「...」



私...自分で天霧に好きじゃないって言ったのに...一目惚れじゃないって言ったのに...

本当にそうなはずなのに...なんでだろ、胸が痛い...。


少しの胸の痛みに耐えつつも、遥香はいつも通りの笑顔に戻した。