「じゃあ、僕は先に失礼します」



阿藤さんが、ぺこりと頭を下げた。



「ちょっと待てよ」
「僕はまた来ますから、ゆっくりしてください」



姫野さんが引き止めるのも聞かず、阿藤さんは私に満面の笑顔を見せてドアへと向う。


とても嫌な予感がする。
ここから帰るべきは私なのに。



阿藤さんは先に帰ってしまい、喫茶コーナーで姫野さんと私は二人きり。テーブルの上には可愛いケーキと、芳しい香りのコーヒー。



本当なら姫野さんは、このシチュエーションを阿藤さんと一緒に楽しむはずだったのでは?



「阿藤さんとは、よく一緒に出かけるんですか?」



もやもやする疑問を解決すべく遠回しに尋ねたけど、汲み取ってくれるだろうか。



「うん、広報課からの付き合いだから。今日は阿藤君に誘われたんだ」
「阿藤さんが、ケーキ好きなんですか?」
「ここだけの話だよ、彼は甘い物が好きだから」



姫野さんが声を潜める。
ちらっと店のドアへと目を向けて、阿藤さんが戻らないか確かめて。



美波は知っているのかな。
以前に阿藤さんと取材に来たと言ってたから、知ってるのかもしれない。
もし知らないなら、教えてあげよう。