制服を着た彼を見たかった。



彼が制帽を被って、にこやかな笑顔で接客する姿。困っているお客さんに手を差し伸べたり、外国人のお客さんにも怖じることなく答える姿。



頭の中に浮かんでくる彼は、生き生きとして輝いている。会議室で討論する彼よりも、駅で接客している彼の方が笑顔が眩しくて。



好き。



気づいてしまったら、余計に苦しくなる。



私を抱いて、『愛してる』と言ってくれた彼を信じたい。きっと、何かしらの事情があったのかもしれない。



言い聞かせながら、もう一度コンコースを見渡した。彼の姿なんてないとわかっているのに。



やっぱり居ない。居るわけがない。
帰ろうと決めて、改札口へと向かう。



ふと目に留まったのは、フリーマガジンのラックに綺麗に並んでいる色鮮やかな表紙。美波の所属する広報課が作っている港陽鉄道の沿線情報誌だ。



手に取ると、表紙の色鮮やかな写真はすべてケーキ。先日、美波と行った茜口駅の北側にあるケーキ屋さんのものらしい。



いつの間にか、改札口の反対側へと歩いていた。ケーキ屋さんに向かって。



ケーキを食べる気分ではないけど、少しでも自分を上昇させたい。