もしかすると、彼かもしれない。



胸の高鳴りが激しさを増していく中、恐る恐るディスプレイを確認した。



込み上げていたものが、さあっと静かに引いていく。あんなに速くなっていた鼓動が、萎むように落ち着きを取り戻していく。



「もしもし、美波?」
「陽香里、ごめんね。メールくれてたのに気づかなくて」



呼びかけると、美波は本当に申し訳なさげな声。何にも悪くないのに、寧ろ悪いのは突然メールで会えないかと誘った私。



じっと家に居れば、よかったものを。



「ううん、私こそ急にメールしてごめん。忙しかった?」
「うん、今ね、両親と買い物に来てるのよ」



今日は美波と会えないと悟った。
会えないとわかった途端に、熱いものが込み上げてくる。鼻の奥の方が、つんとして痛い。



「そう、わかった。また明日」



押し寄せる痛みに必死で耐えながら、笑って答えた。



電話を切った後に残ったのは、やはり寂しさだけ。少しでも会って、話を聞いて欲しかった思い。



改札口の窓口には、ここに来た時と同じ新入社員がいる。本当なら、あそこに居るはずだったのは彼かもしれない。