すらりとした鼻筋が見えたのは一瞬。すぐに彼は背中を向けて、阪井室長らに会釈した。



黒い短髪の頭を揺らして、彼がエレベーターに乗り込んでく。後に続いて、阪井室長らが乗り込んだ。



エレベーターのドアが閉まる。



一瞬だけ見えた横顔が、脳裏に焼き付いてフラッシュバック。



見間違いなんかじゃない。
あれは確かに、橘さんだった。



俄かには信じられないけれど。



どうして彼が、こんな所にいるの?



服装だって違う。今日は仕事だって言ってたから、深い灰色の制服を着て制帽を被っているはずなのに違っていた。



さっき見た橘さんは、初めて会った時に着ていたのと同じスーツ姿だった。



今日は仕事だって言ってたのに。
阪井室長と笠子主任と一緒に居たから、仕事には違いないのかもしれない。



だったら、どうして嘘をついたの?



ぐるぐる考えても答えなんか出てくる訳もなく、込み上げてくるのはただ虚しい気持ちだけ。



もうエレベーターが何階に向かったのかなんてわからなかったし、確かめようとも思いつかない。



しばらくの間、私は大きな観葉植物の陰から動けずに居た。