こっちを向かないかな……
じっと視線を離さないでいるけれど、振り向きそうにもない。
ここからでは阪井室長が、ひとりで話しているように見える。やたら楽しそうな声は聴こえるけど、話の内容まではわからない。
植え込みの陰から、必死で耳を傾けつつ目を凝らす。
気分はまるで、スパイ。
少しずつ、彼らに近づいていく。
気づかれないように慎重に。
エントランスの大きな自動ドアが、ゆっくりと開いた。阪井室長らが、ロビーへを入っていく。
ちょっと待て、どうしよう。
すごく気になってるんだけど、私まで中に入ってもいいものか。
入ったところで思いきり鉢合わせたりしたら、どうしよう。阪井室長と笠子主任に、何してるのかとツッコまれたら何て答えよう。
迷っているうちに、自動ドアが閉まる。大きなガラスの向こう側に、阪井室長らの影が遠ざかっていく。
ちょっと待って!
迷いを振り切って、足を踏み出した。
自分でも理由はよくわからないけれど、追いかけなきゃいけない衝動。何かわからないけれど、気になって仕方ない。