この名案を、早く誰かに聴いてほしい。
真っ先に浮かんだのは彼。
胸がざわめいて、歩く速度が増していく。
白い半袖シャツに深い灰色のパンツ、目深に被った制帽を正しながら、きゅっと口角を上げる彼の顔。
いつしか改札口へと向かう人の流れを飛び出して、足取り軽く。
目指すは駅員室。
彼は今、何をしているんだろう。
窓口に居たらいいなあ……
ふわふわとドキドキの入り混じった感覚がこそばゆい。
駅員室の窓口が見えてきた。
若い女性のお客さんが、窓口に向かって話しかけてる。
ちらりちらりと見え隠れする制帽のつば。一瞬だけ腕が見えて。あと少しで顔が見えそうなところで、すぐに隠れてしまった。
もしかすると、応対してるのは彼かもしれない。
速度を落としつつ、窓口を見つめる。
若い女性が笑顔で会釈して、改札口を抜けていく。
窓口に居るのは……彼じゃない。
おそらく、あの人は四月に入社した新入社員だろう。
足を止めて駅員室の奥へと目を凝らすけど、彼の姿は見当たらない。
どこへ行ったんだろう。
ぽつんと、胸に不安が浮かぶ。