私も想いを伝えたい。
あなたがもう、あんな遠くに行かないように。
私のそばにいて欲しい。
『大野くん。私の想い…聞いて…?』
彼は私を離した。
顔をあげるとあなたの唇。
顔を下げるとあなたの胸。
大野くん、ズルいよ…。
私を誘惑しすぎだよ…。
こんなことして、私…、壊れちゃう。
『聞くよ』
私の耳に低音ボイスが響く。
『う、うん…。私ね、大野くんのこと好きだったんだよ。あなたの出ている番組、ドラマ、CM、全部見た。CDもDVDも全部買ったよ…。少しでもあなたのことを知りたくて。ファンクラブにも入った。ねぇ、教えて?』
『なにを?』
『どうして、私のこと。好きだったの?』
しばらく沈黙。
マズイこと聞いちゃったかな。
ごめん。ごめんなさい。
『何でかな…。じゃあ聞くけど』
彼は私を見てニヤニヤしている。
『何で俺のこと好きなの?』
意地悪なんだから。
ふんっ。
『教えてやらなーい』
私は拗ねたふりをする。
彼が私の肩を叩く。
『な、何___』
振り向くと同時に彼の指先が頬を刺した。
それを見て腹を抱えて笑う彼。
『もう!大野くんったらやめてよ!』
まだ笑っている。
『やめてくれないと泣いちゃうからね。
大野くんなんてきらーい』
私は大野くんに背を向けて座り直した。
『わかった、わかったよ!』
大野くんは私を振り向かせて自分の方を向かせた。
『ふふ。やっぱり大野くんじゃないと私ダメだ…』
大野くんの顔を見て思わず本音。
『お…!?』
急に恥ずかしくなって下を向いた。
その下から覗き込んでくる、大好きなあなたの顔。
その顔はいつも私を救ってくれた。
いつも私を助けてくれた顔だった。
『もう、やめてよ…』
『いーーー、だ』
白い歯を見せながら私をからかってくる。
『べーーー、だ』
私も負けずにやり返したやった。
すると彼は
『お前の変顔。ゴリラみたいだな』
また腹を抱えて笑っている。
『な、な、何よ!大野くんの変顔も相当なものだったわよ!』
『わかった、わかった』
彼は笑った。
私も笑った。
『あ、忘れてた』
彼はカバンの中から封筒を取り出した。
そして私へ。
『何なの?これ』
『いいから中を開けて見てよ』
中を開けた私は固まってしまった。
え…、本気なの…?
こ、こんな私に?
固まった私を見て彼は
『ごめん。嫌だった…?』
彼の言葉に私は首を振った。
これ以上触れないくらい。
首が飛びそうなくらい。
『わ、わ、私でいい…の?』
婚約届だった。
もう大野くんの名前は書いてある。
ハンコも押してある。
『言ったろ。お前の隣を開けとけよって。いつか必ず迎えにくるって。覚えてるだろ?』
『う、うん』
『だから迎えに来ただけなんだよ』
彼の顔は笑顔でいっぱいだった。