軽くメイクと思いドレッサーの前に座った。
ま、グロスくらいでいいかな。
大好きな薄オレンジのグロスを薄く塗る。
うん。いい感じ。

部屋を出ると下から男性の声が聞こえて来た。
母と仲良く話しているようだ。

え、ちょっと待って。
この声…。

私は階段を駆け下りた。
リビングの扉を開けるのももどかしく、乱暴に開け放つ。
その音に振り向くあなた…。

やっぱり…。
何にも変わってない。
スポーツで鍛えたかのような腕の筋肉。
血管が浮かび上がり逞しく見せている。
首筋、胸、足、顔…。
何一つ変わってないよ…。
だけど、身長だけは何十センチも高くなっていた。

『大野くん…、大野くん!』

気づいたらあなたの名前を何度も読んでた。
卒業式のあとに来てくれたあとから、何一つ連絡もせず、ただ、テレビに映るあなたを見ていた。
それがやっと…。

『紗江…。紗江!』

あなたは私の名前を呼んでくれた。

母が気を利かせてリビングを出て行く。
母には唯一、告白されたことを話したのだった。
母はそれから応援してくれていた。
私を、大野くんを。


『大野くん…。10年前__』

不意に大野くんに抱きしめられた。
10年前と全く同じだよ。大野くん。

『10年前と同じだね』

『もう離さない。君を、絶対に』

大野くんの鼓動が早くなってく。
私の心臓もドキドキだよ…。
いつ壊れちゃうかわかんないよ…。