私が5才の時、仕事でいろんな国を回っていた父が男の子を連れてきた。
「アカリ、弟だよ。」
親から離されたらまだぐすってしまうほどの年齢のはずなのに、その眼は渇いていた。
空っぽのガラス玉のような瞳。
当時の母は哀れむようにその眼を潤めていたが、幼かった私はなんてキレイなんだろう...と眼が離せなかった。
異国で奴隷として売られていた、少年。
それが理解出来たのは、なんとなく姉弟の形になれてから。
「ただいまー。
ほら、二人にお土産だそ。」
「わぁー、キレイな絵本!セツ、一緒に読もうよ。」
「いいけど、途中で居眠りして涎まみれにすんなよ。二人の本なんだから。」
「よ、汚したりしないもん。」
「居眠りするのは否定しないんだ?」
「し、しないから!もーいい!セツには見せない!」
「は?それ俺のでもあるんだけど。」
「うっさい、一人で見るから付いてこないでよ!」
「だから、お前だけのものじゃな..あ、アカリ、てめぇ鍵かけやがったな。開けろ、コラ。」
「あーもう、セツ、ドア壊れるから!
もう二人ともケンカばっかりしてないで...あなたも笑ってないで何とか言ってくださいよ。」
「いいじゃないか。姉弟なんだから、たくさんケンカするといい。
....それより父さん帰ったばかりなんだが、ウェルカム感が薄くて寂しいぞ?」
本当の家族よりも家族らしい家族に。
母はいつも呆れて見てた。
父はいつも笑ってた。
でも最後にはみんな笑ってたな。