――――廊下で先輩を見つけた。



 ちらりと先輩が横を見ると、あとから出てきた男と何か話している。教室から出てきたのだから、同級生だろう。
 笑っていた。
 俺と話す時と同じように。
 けれどそこには俺の前とは違う"何か"があった。なんだ。俺は二人が何を話しているのか考える。なんだ。どんな関係なのか考える。俺があの男より勝っているところを考える――――そうか。
 "差"だ。
 俺は昔から頭良くない悪ガキの一歩手前、という感じで、大人になりたいのに、あの先輩にあうような男になれたならと思うのに、上手くいかなくて。
 かっこよくみせたいのに、からまわって馬鹿やって。

 そんな俺を、先輩はいつも笑っていた。その笑みは、今俺が見ている先輩と同級生の男とのあれと、何が違うのか。
 俺は、後輩で。
 あの男は、先輩の同級生で。
 先輩は俺を、"先輩であるから話しかけている"とくらいしか思って鋳ないのではないか。やんちゃな、少し悪ガキっぽいこどもの相手をする姉、みたいな。
 ああいう顔を、そういえば俺の姉ちゃんがしてなかったか。ほどほどにしなよ、隼人。そうやって庇ってくれる姉ちゃんみたいな、少し困ったような笑顔。


 俺が見たいのは、そんなんじゃない。
 見て欲しいのは、そういうのじゃない。





「高橋君」




 放課後、俺は美術部の部室近くで先輩に会った。
 絵の具がついたエプロンをした姿。




「昼休みのとき、廊下にいたでしょ。こっち見てたから話しかけようとしたのに、そっぽむくんだもの」

「その、すんません。とくに何もないんですけど、邪魔かなって」

「邪魔?」