ホースでまんべんなく水をかけていた先輩は、もうすぐいなくなってしまう。といってもまだ数ヵ月先のこと、なのだが。




「高橋君」

「なんすか」

「時間いいの?グラウンドにみんな集まってるみたいだけど」

「あ、やべぇ……!」

「がんばってね」




 先輩とよく話すようになって、そんなにたっていない。けれど、少しずつでも話せるようになっているということだけでも進歩といえる。
 美術部の部室であってから、次に話す機会というものになかなか恵まれなかったのを思うとそれだけで――――いや、俺はわかっている。俺は頭良くないからそんないいことなんて思いつかないほど、先輩が気になっていたというのは自覚している。

 倉田先輩の下の名前が恵理だと知ったとき、いつか呼んでみたいなだなんて一人思って、一人難しいだろうなと落ち込んだ。
 年齢の差。
 よく芸能人が十歳差とかで結婚したりつきあったりするが、学生の一年、一歳というのはどうも、大きくて、まるで壁のように立ちはだかる。それを飛び越えるのも、壊すのも大変だ。


 何で俺は一年早く生まれなかったんだろう。
 何で先輩は一年遅く生まれてくれなかったのだろう。


 何で、だなんて意味がない。先輩後輩というその関係が、今の現実。同級生だったらまだ変わっていたのかもしれないと思ってしまう。
 つい、"もし"を考えてしまう。
 
 先輩にとって、俺はただの後輩でしかない。


 美術部に所属していて、部長である先輩は、部長としてちゃんとしてはいるらしいが、私生活の話を後輩とあまりしないらしい。先輩のことを誰かから聞くにしても、先輩と関わりある人がいない。ならやはり、自分からいくしかない。
 あれこれ悩むなら、その方がいい。