空を見上げると


どこまでも果てしなく続く青い空


様々な形をしてる白い雲


視線を戻せば、ゆっくりと近づく人影。


遠くからでもわかる……最愛の人


「…………っ」


思わず唇を噛み締めた


立ち止まって見つめるだけの私とは裏腹に


1歩ずつ確実に私に近づいてる彼は、まるで


"私達"そのものを示してるようで。


再び思い出したその距離。




……だから、彼が私の目の前に立った時、



私は顔を上げられなかった



「紅愛……?」


それでも心配そうな彼…翔聖の声に、じんわり涙が浮かぶ


「…………っ」


あんなに会いたがってたのは私なのに


たくさん勇気をもらったのは私なのに


どうして…。


「…何があった?」


ふわっと頬に手が触れたのを感じた瞬間、


ゆっくり顔をあげられて



__ポロッ


あぁ、もう。涙が溢れない様に



見ないようにしてたのに



視界に入ってしまった端正な顔は


心配、不安、動揺


そんな感情で揺れていて。


そんな顔をさせてるのは私。


私の弱さ。


「どうして…、どうして強くなれないの…っ…」


思い出すのは、何気無い言葉の数々


"私…小学校の頃から手が掛かる子供だったからそんな私に嫌気がして親に捨てられた。


引き取り手が無かったから警察の裏を通って此処に連れてこられた"


"親父の虐待がどこからか夜影に伝わって


真夜中、親父は夜影に殺されて俺はそこまま引き取られた"


"僕達はね、元々人身売買で夜影に売るために作られた人間なんだ"


"私達の値段ね、2人合わせて500万なんだって"


それぞれの過去。


癒える事の無い傷。


それは私にあまりにも大きな衝撃をもたらした


誰も支えてくれる人が居ない中でずっとずっと夜影で闘ってきた。


私には支えてくれる人がいて、自由な時間、猶予もあって。


それを知った時、どうしようもなく苦しくなった


「私……っ、アレクトの皆を置いて幸せになれない…っ」


今更なのはわかってる。


偽善者だって言われてもしょうがないと思う。


でも私は……支えてくれた4人を置いてはいけない


「私より辛いことが沢山あったのに…


私が先に過去を清算して幸せになんてなれない……っ」


涙が1粒、こぼれ落ちて


私は俯いた。


だけど、


__グイッ


その瞬間力強く引き寄せられ、


ぎゅっと腰と背中に手が回った


翔聖の表情は見えない。


「…過去に順位なんてつける必要無い。


お前の仲間は、お前の幸せを願わない奴らなのか?


俺にはそう見えなかった。


お前の事が好きで、誰よりもお前の事を慕ってた。


過去、聞いたんだろ


それは縛る為じゃなく本当の仲間になろうとしたんじゃないか?」


……っ



「わかってる…、そんなつもりで話した事は。


でも…っ」


「でもじゃない。


人の苦しみを知って、それを自分も背負おうとするのはお前の優しさで、


お前の弱さだ。」


翔聖はそこまで言うと、少しだけ体を離した。


そして背中に回していた手はゆっくりと私の頭を撫でる


「話す度にお前が一々苦しくなって悩むなら何も話せないだろ。


背負うのは助けを求められたらでいい。






もう少し、力を抜いた方がいい。


でも過去の清算を急がせた俺が悪い、ごめんな」