コツ…コツ…


私の靴の音がやけに大きく耳に届く。


心臓が有り得ないほど早く鳴っていて足が震える


その間にも私と彼らの距離が縮まっていて


あと、少し…というところで


ふと1人が顔を上げた


「__紅愛、ちゃん…?」


玲さんと目が合った。


わかりやすいほど目を見開いて、ポツリ、私の名前を口にした



その瞬間、私に背を向けて座っていた柊さんと仁さんも弾かれたように振り返り、私を見た



「お久しぶり、です」


さっきまで緊張していたのに何でか顔を見た瞬間、自然とそんな言葉が口から飛び出していて


笑顔が溢れた



「……っ!!」



「「紅愛ちゃん!」」


「紅愛!」



すると、3人はおもむろに席を立ち私に向き直った


そして…


腕を広げて微笑んだ










「…………っ」


何、それ…。


私を見て微笑む顔が優しすぎて、


なのに泣きそうな瞳が


ジワジワと私の視界をボヤけさせる


唇を噛み締めて3人に向かって歩き出す


涙がこぼれないように少しずつ


だけど


『くーちゃんは、僕らの家族!妹!』


『僕らの元気の源は紅愛ちゃんの笑顔かな』


『まぁ…紅雅と喧嘩したら遠慮せず来いよ』



走馬灯のように過ごした日々が蘇って



『紅愛、ありがとう』


ふわりと紅雅の声が聞こえた気がした



「……っ!!!!」


気づいたら、走り出していた


そしてその距離が0になった時


懐かしい暖かい温もりに包まれて



「…っ…ぅ……」


涙が止まらない


ぎゅーっと3人に包まれて、


ただ胸が張り裂けそうに苦しかった









「そっか…紅愛ちゃん、沢山苦労したんだね」


ひとしきり再会を喜んだ後、私は3人と別れたその後の事を話した


隣にいる玲さんがそうポツリ呟いた


まるで、自分達のせいだと言っているような表情に


「違うんです!あれは、仕方の無い事だったんです


だから、私は誰も恨んでません」


気づいたら私はそう言っていた


「仕方の無い、事……?」


怪訝そうな仁さんの瞳に見つめられ、ハッとする


「あぁ、そうじゃなくて…。」


そういう事じゃない


紅雅の死は決して仕方の無い事ってことではなくて


それに"至るまで"の話だ


日本語って難しい


「紅雅が死んだのは紛れもなく炎薇のせいです。それは今でも許せない、だけど


私は舞龍を責める事はしません


だって、起きてしまった事は変えられないし


後からこうすれば良かったなんて言ったって、


先が見えてる今と当時では雲泥の差。


あの時…私達はきっと紅雅を救えなかった」


最善の選択をした、なんて自信を持ってなんて言えない


あの時


紅雅を探さなければ良かった


舞龍に入らなければ良かった


抗争の日、紅雅に会いたいと言わなければ良かった


言い出したら霧がない程"ああしなければ良かった"なんてある。


けれど、その時の私達はその選択をしようとした何かがあった


もしも救おうとするならきっと、初めからやり直さなければならない


だから、あの時あの状況では


私達は紅雅を救えなかった、そう思う


それは私が記憶を取り戻してから今まで考えてきた事



「紅愛は俺達より大人だな」


「……そう、ですか?」


「ふっ…時々、な」


「む。」


大人と言われるのは嬉しいけど時々って…ムカつく。


「あーあ、僕達が考えた事全部紅愛ちゃんにひっくり返されちゃったなぁ〜」


ムスッと拗ねてると、横からさらにムスッとした声が聞こえて視線を向ける


そこには片手で頬杖をつきながら私を見つめる玲さんがいて


その色気に思わず息を呑んだ


「えー…そんなこと言われても」


「っくく、冗談だよーん」


ふわっと微笑んだ玲さんは空いている手で私の頭をくしゃっと撫でた


…そうだ、雰囲気が和んだところで。


「玲さん、なんで紅愛ちゃんって呼んでるの?」


ずっと気になってた事。


別にいいんだけどさ、玲さんって私の事


"くーちゃん"って呼んでなかったっけ?