化物が、明葉に襲いかかった。

目の前を突っ込んで来る化物。
大きく口を開く魔物の姿。
迫り来る暗闇を追い払うよう、明葉の中に彼女の愛する人々の姿が映った。

明葉は目を瞑り、叫びながら剣を振るった。

眩い光が一閃した。

化物が襲うその瞬間、明葉の剣が光を放ち、突っ込んで来る黒い体を斬り払った‐。
…獣の叫びを残し、影の化物が明葉の後ろへ散るように消えてゆく。

「やるじゃないか」

どのくらいの間か…。
息を乱す明葉は、少年が言うまで呆然と立っていた。
「………あ…」
「素人にしちゃ上出来だ」
少年が笑う。
「…お願い。美由の夢から…出て行って」
明葉が弱く言う。仮に、彼と戦う力など、残っていなかった。

「そういう訳には行かない、用があるのさ。それに、アレを倒して解決と思ってるのか?」

何処からか、獣の唸り声がした。

無数の姿見の中で、無数の黒い影が唸り声を上げ蠢いている。
「………」
明葉が剣を落とし、両膝を落とす。
胸を絶望感が広がってゆく。
影の化物が今に鏡面を飛び出して来そうに蠢く中、少年が鎖の上を渡り宙吊りの美由に近寄ってゆく。