走り回るくらいの広さはあった。
が、今明葉の足は立つのが限界であった。
明葉は剣を、震う両手で構えた。

化物が、唸り声を上げ襲い来る。

「………!」
明葉は容易く弾き飛ばされた。
衝撃で手放した剣が床の上を舞う。
痛む体を立ち上がらせようとして、明葉の足を激痛が襲う。
「ッ…!」
明葉の表情が歪む。が、必死で立ち上がり、剣の元へ歩む‐。
床の剣に手を伸ばす。
明葉が剣の柄を握る瞬間、化物の鋭い蹄が背中を斬り裂いた。

…鮮血が舞う。

明葉は、床に深く倒れ込んだ。
「やっぱり無理か」
少年が言う。只の少女が、初めて使う剣で獣に敵うはずが無かった。
「………う…ッ…」
明葉が呻く。背中が、熱い。
剣を握る。又、剣を支えにして、明葉が立ち上がる。
「…眠って、良いんだぜ?」
「…眠れない…私、美由を助けるって…決めたから…」
少年の言葉に、明葉が返す。
「御立派だ」
少年が、明葉をフッと笑った。
化物の嘶きが空気を震わす。
次で、明葉に止めを刺そうというのであろう。
明葉は残っている力で剣を構えた。
明葉ひとりの夢ではなかったから。
明葉は、逃げ出さなかった‐。