「足下、危ないぜ」
少年が、驚きの表情で自分を見上げている明葉に言う。
「え…?」
言われて、思わず下を向く明葉。
足下を、影が蠢いていた。
鏡の床の中を、大きく黒い影が明葉の下に広がっている。
影が盛り上がり、獣の頭を成す。
「!?」
そして、明葉の足首に噛みついた‐。
悲鳴を上げる明葉を、少年は只、見下ろす。
明葉は床に引き倒されていた。
「言ったろう?」
呻く明葉に少年の言葉を聞く余裕は無い。
少年は何処からか、一本の剣を取り出した。化物の噛みつく明葉の足に向けて投げる。
化物は明葉を放し、再び床の中に潜り込んで退く。
そして剣は鏡の床に突き立った。
「戦え。…戦って、勝ってみろ」
少年が言う。
明葉の足首からは鮮血が溢れて、空を映す床をより濃く染めてゆく。
「うっ…」
明葉は剣を体の支えに、不安定に立ち上がった。
又、黒い影が盛り上がり、床から這い出すよう化物が姿を形作る。
…恐怖。
…苦痛。
…目の前にある、悪夢。
美由を苦しめてきた影の化物‐。
明葉は本当に悪夢と戦えるのか、わからなくなり始めていた。
夢魔の少年が舞台を見下ろす中、全身を形成し化物が嘶く。