そして姿見の明葉は、逆手握りでナイフを高く振り上げる。
呆然と眺めている明葉の目の前で、笑顔が大きく広がった。
姿見の明葉は、何の迷い無く自らの胸にナイフを突き刺した。
「あ…あぁ…」
明葉の足下に、姿見の中から真っ赤な返り血が飛び散る。
嬉しそうに歪んだ笑顔で、姿見の明葉は繰り返し何度も自分の胸にナイフを振り下ろす。
…全てを赤く染め上げ、彼女の凶行が止んだ。
大量に出血し、血を垂らす唇で、姿見の明葉は平然と笑っている。
そして今度は、もう一本のナイフを明葉のほうに向けた。

明葉は、只、動けずに居た。

姿見の明葉が、踊り場に向かってナイフを投げつけてきた。
ナイフは鏡面を飛び出して‐。
目を見開く明葉の真横、ざくりと突き刺さった。
「………ッ!」
声も出ぬ明葉。姿見で笑う明葉の姿が、黒い影に変わってゆく。
そして姿見は一面を塗り潰すよう黒く変容した。
黒い影の腕が鏡面から突き出す。明葉の元に長く伸びて来る‐。
腕が、明葉の体を掴んで、姿見に引き寄せる。
「………! イヤアアアッ!」
悲鳴を残し、明葉の姿は鏡面の中に飲み込まれていった。