踊り場の途中、明葉は足を止めた。
膝に手を当てる格好で俯く。足の震えが治まらないのは疲れのせいばかりではない。
「何なのよ…」
明葉は、改めてココが悪夢の世界である事を実感した。
半ば諦めに近い感情で、残りの階段をゆっくり下りてゆく。
広がっているのは同じ廊下‐。
閉じた輪の上を歩くようであった。
「………じゃあ、う、上は…?」
上りを確かめてみようと、明葉は背後の階段を振り返った。
予想は出来るけど…。
今度は、階段を上がり始める。
「!?」
が、踊り場に来て、不意に明葉は立ち止まった。
目の前の薄闇に浮かぶ、少女の姿‐。
上に続く残りの階段の手前、壁に大鏡がある。全身を映す、姿見と呼ばれる物である。
明葉の姿が映り込んでいるのだが、位置関係のせいか下りの時には全く意識していなかった。
あるいは、突然姿見が現れたのか。
明葉は異状を悟った。
姿見の中の明葉は、両手に大型のナイフを握っている‐。
「…今度は何…」
明葉は弱く呟き、後ろの壁にふらりと背中をぶつけた。
既に明葉と姿見の明葉は同じ動作をしておらず、彼女は、明葉に歪んだ笑顔を向けた。