何処が床か…壁や、天井があるかさえわからない。
扉の中には、完全な白で塗り潰したような景色が広がっていた。
「何…コレ…」
呆然として、見渡す。
そして、その中に異物を見つけた。
「木?」
一面の白の中、切り取ったように黒いシルエットがある。少し離れているようだけど、その物体は私の目に木のように映った。
曖昧な感覚で、再び足を踏み出す。
近寄るに連れて、物体がやはり木の姿である事がわかる。
私は木の下まで来て、見上げた。
まるで影で出来たような、黒い木。
白一面の空間で只一本、その木は存在していた。

「誰だ?」

突然声がして、私は悲鳴を上げそうになった。
辺りを見回すが誰も居ない。現実で聞く肉声のような、リアルな響き…。
私は、もう一度木を見上げた。
「今、木が喋ったの…?」
夢の中ならそれもおかしくない。

「誰だって聞いてるだろう」

声は、確かに木のほうから響いてきた。
そして、私は気がついた。
黒い木の枝のひとつに、誰かが座っている。
木に溶け込むような、黒い学生服。
彼の姿を見た時、私の意識は急速に濁っていったのだった‐。