「えっ…?」
「まあ、わからなくて構わないよ」
少年は明葉に背を向け、上体を柵に預けた。
「………あなたの言う通り…私の友達が死の夢を見てます。お願い、何か知ってるなら教えて」
明葉が言う。
明葉は、彼が普通の人間でない事を何となくわかっていた。
彼と出会ってから悪夢が始まり…そして今、現実に突然現れた。
「状況の理解が早いのは良いぜ。幽霊にでもすがりたいって感じか」
が、今の言葉に明葉は怯んだ。
「ゆ、幽霊…?」
「只の例えさ。…逃れたければ、悪夢と戦う事だ。現実じゃ、何も出来やしない」
少年は背中を向けながら話す。
「夢の中で…戦えって言うの?」
「そうさ」
不意に近くで鴉の鳴く声がした。
明葉が振り返ると、いつの間にか屋上には鴉が群がっていた。
口火を切ったよう、無数の黒い影が一斉に鳴き声を上げ始める。
「………何コレ…。あ、あなた、一体誰なの!?」
明葉は恐怖し、叫んだ。
少年は明葉を横目で覗き、笑う。

「夢魔(インキュバス)」

鴉が騒ぐ中、少年の言葉は明葉にはっきりと届いた。
明葉が少年を振り返ると、彼の姿は屋上から忽然と消えていた‐。