叫んでも状況は変わらず、焦りだけが心を満たしていく。かといって下手に動くこともできず、双方固まったままだった。

 数秒して意を決し、仁が左腕へと手を伸ばす。そして恐る恐る触れると、一気に抜いて、まるで熱いものに触れたかのように一瞬で捨てた。


「だ、大丈夫か……?」


 優が声をかける。荒い息を整えながら呆然としている様子から、あまり大丈夫ではなさそうだ。
 そして優は仁の放り投げた方向、注射器の落ちているとこを見た。注射器は投げられた衝撃で見事に割れ、中に入っていた液体は地面に流れていた。