「返してやってもいーよ。いうこときくなら」
「……! うん、わかった、なに。返してっ」
ソレが帰ってくるなら私は多分なんだってしてしまうと思う。
あれ? てかもともと私のものだったような。
「質問~。この紙は一体何?」
にっこり微笑んでそうたずねられても……
「あ、の、ね、ソレに答えられるなら、私、こんなに必死にとりかえそうとしませんから!!」
更科くんは意外そうだ。
「なんでよ? 口で説明するほうが、直接読まれるよりいいでしょ?」
「やだよっ」
「男?」
「へ?」
更科くんがゆっくりと顔を近づける。
ふわ、って爽やかな薫りがした。
「男からの告白?」
「……」
「あ、そうなんだ」
「わ、たし、なにも言ってない」
「ははは。
リッコの顔って正直だね、ってよく言われない?」
更科くんは笑顔のままその紙を広げた。
「……あっ!!!」
「へー。B組の山口がねえ」
「う、う、うそつきっ! 読まないって言ったくせに」
「リッコ。中学からの付き合いの俺に、隠し事するなんて、ひどいよ」
更科くんの口許の笑みが、なぜか怖く見える……。
*
次の日。
「あ、あの」
「あ……」
「こないだ、下駄箱に手紙入れたものですけど、やっぱあれ、取り消しで! スミマセンでした! サヨナラ!!!!」
呼び止められたと思ったら、速攻で何故かフラレてしまった。(人生初の告白で戸惑ってたから、助かったけど)
「あ、ふられちゃったの?
ソレはソレは、すごーく残念。
きっと縁がなかったんだね、ドンマイ」
更科くんにはそう声をかけられた。
ばか。
更科くんのばか、とこころのなかで思う。
更科くんは気づいてない。
だから、私の心を乱すんだ。
私の心はずーーーっと…………
間近で見た黒い輝きを湛えた瞳にとらわれているのに。