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「芸人妻の心得~?」

「ずばり教えてください」

透琉くんと会ってから五日後の金曜日、ご飯に誘ってくれた雪美さんにここぞとばかりに尋ねた。

雪美さんの旦那さんは久遠さんという芸人さんで、とーぐんの兄貴分だ。
「ハウンダー」という漫才コンビのつっこむ方の人。
関西出身で、上京するときについてきた彼女が今の奥さん、雪美さんだ。
今や冠番組を数本持つハウンダーさんも、下積み十年というから、やっぱり甘くない世界だなと思う。雪美さんの苦労も大きかっただろうな。

でもその苦労を共に乗り越えたからこそ、今の素敵夫婦の形に辿り着いたんだと思うと、憧れるし羨ましい。


「どしたん、急にそんな思いつめた顔して。えっ、もしかしてとーるにプロポーズされたん?」

「えっ、違います。ないです、ないですっ」

飛躍した話にぶんぶん両手を振って否定する。
透琉くんはまだ二十一だし、仕事で忙殺されている頭に「結婚」のけの字もないだろう。
セックスのせの字はあるみたいだけど。

「ただちょっと、自信なくて。透琉くんはどんどん進化していくのに、私は何も変わってないなあって。それどころか、退化してってる気がするんです。こんなんじゃ、透琉くんに置いて行かれるっていうか、ついて行けない気がして…………」

透琉くんに捨てられるのも時間の問題かもしれない、と思ってしまう。
テレビの世界に入ってしまった透琉くんは、毎日華やかな美女に囲まれているんだ。
人気急上昇のとーぐんの「話しやすいほう」の透琉くんに、色目を使う女子もいるかもしれない。
しれない、じゃなくて、きっといる。
そう思うと胃がキリキリしてきて、透琉くんの出ている番組を観てられない。