「お忙しいところ、すみません。急に」

 メモ帳と筆記用具を慌てて片付け、端っこに寄るぐんちゃんに、頭を横に振る。

「ううん、全然。暇だったし。晩ご飯作らなくてよくなって、ラッキー」

「そうですか、良かった。じゃあ、とりま、ドリンク……何にします? つか永原、普通こっちだろ」

 ぐんちゃんの向かいに座った私の、隣に座ろうとした永原さんに、鋭いツッコミが入る。

「えっ……けど、ここが一番下座ですよ?」

「んじゃ、お前と隣合わせが一番上座? なわけないだろ」

「それを言うなら、群司さんが先にそっちに座ってるのが間違ってるんじゃないですか」

 むっとして言い返す、永原さんにハラハラする。

 タレントとマネージャーってもっと遠慮のある関係かと思っていたけど、この二人は違う。
 対等に言い合いする。

「それ、先に言えよ。菜々香さん、俺そっち座ります」

「あっ私、別にどこでもいいよ」

「いえ、どうぞ」

 すでに席を立っているぐんちゃんの気遣いを無下にするのも何だから、いそいそと席を代わる。
 VIPルームといっても広さはなく、こじんまりとしていて薄暗い照明の下、調度品の高級さが際立つ。

 オーダーを済ませ、ドリンクが運ばれてきた。

 お疲れ様ですの乾杯をして、少しの世間話を交わしたあと、ぐんちゃんが本題を切り出した。