暗く静かな夜の住宅街に、高らかに響く電子音。
ディスプレイには『お母さん』の文字が表示されていた。
電話に出ようか迷っていると、深田恭一はさっさとメットをかぶって原チャのエンジンをかけた。
「ちょっと! 話しはまだ終わってないんだけど」
「んー。でももう遅いし。電話、親からでしょ? 心配してんじゃないの?」
「いいよ、まだ11時前だし」
それに家はたった数十メートル先だ。
そう言ったら、深田恭一はダメと頭を振った。
「充分遅いって。話しの続きはまた今度ね」
チャラい見た目のクセに、こんなとこで真面目なのか。
「今度っていつ」
「言ったでしょ。キミに呼ばれたら、いつだって、どこにだって飛んでくよ」
約束する。
そう笑って、深田恭一はあたしの頭をポンポンと軽くなで、原チャに乗って夜道に消えていった。
背中のトライバルが、うっとうしいくらい目に焼き付く。
結局深田恭一が何者なのか、はっきりさせることができなかった。