急に倒れる女を、難なく抱きとめる「風神」と名乗る男。
彼は困ったような笑いを隠せず、仕方なしに一足早く≪空船≫に乗り込ませてあげる、と言った時に女達はいいなぁ、という言葉を口々に発していた。

女の意識はすでになく、「風神」と名乗る男に、姫抱きという形で抱えられていた。

女を、付き添いの男に医務室のベッドに連れて行くよう頼み預けた後、「風神」と名乗る男も≪空船≫に乗り込もうとする。渋る女達を慰めるかのように、15分後また、すぐ会えるから、と言いながら辺りを見渡した。

異変に気付いたのは、その時。

一人の男の子が、空を飛んでいた。

いや、浮いていたと表現する方が正しいのか。
恐らくは魔法なのだろうが、検討もつかない。

≪空船≫でのパーティーに羨む子供だろうか、と思ったものの、男の子の顔は羨むような顔ではなかった。
まるで、偵察をするかのような、冷たい瞳で空から見下ろしていた。

まさか、と「風神」と名乗る男は一つの考えを頭に浮かばせるが、すぐに否定する。
リュックサックのショルダーベルトを大事そうに掴んだ男の子は同じ位置から動こうとせず、危害は無いと判断した「風神」と名乗る男はそのまま≪空船≫への入り口の方に消えた。


「僕に気づくだけ、まだましかな」

空に浮いた男の子とは、先ほど女に自らのギルドに勧誘していた男の子だった。
怪しげに笑った男の子は、小さく呟くと屋根に降り立ち何処かへと向かって歩き始めた。