「君、すごく気に入ったよ…」
「風神」と名乗る男が一番に、女に発した言葉はそれだった。
女の脳裏には「風神」との思い出が、次々に蘇る。もう一度あの時に戻れるような感覚に陥り、幸せに満ちた時間を過ごせる事を期待させた。
「えっ…」
女はそんな考えとは別に、急に話しかけられた焦りのせいで言葉を詰まらせていた。
それを見た「風神」と名乗る男は、クスリと笑った後、ため息が混じったような、大きく息を吐いた笑い方をした。
とたん、女の頭に霧がかかる。
睡魔と形容するに相応しいそれは、一気に女を襲った。
なぜ、こんな時に。霞む女の脳内で呟いた言葉すらすぐに分からなくなる。
ただ、「風神」に会えた。その事にあまりの安堵と今までの疲れが押し寄せたんだろう…そう、考えながら迫る地面を目の前にして、目をかたくつむった。