しばらく歩いて改めて気づかされた事は、女はまだ何も知らないと言うこと。
探しているギルドがどこにあるのか、現在地がどこなのか、まるで自分に光が差していないような感覚にさえ陥る。
それでも人混みの方向と共に、歩き続けていると人混みが同じ場所固まった所から、女達の歓声が響く。
「きゃーっ、風神さんよっ!」
女の足は、ピタリと止まる。
そして、ゴールを目の前にしたかのような喜びに満ち、女の頬は知らず知らず緩む。
走ってその人混みをかき分けていくと、
黒いコートを着た男が女達に囲まれていた。自ら「風神」だと名乗る男には、女が昔出会った「風神」の面影は無い。
「風神…‼︎」
それでも知った名前に出会えた事が嬉しくて、周りの歓声を上げる女達と共に声をあげる。
「風神」と名乗る男は、このすぐ後の私有の≪空船≫でのパーティーに誘っている。
≪空船≫とは、魔鉱石<マジア>(魔力が込められた鉱石)の力を使い、主に空を飛んで移動する船の事だ。
女は、正直言ってよく分からないが、風神と再び話せる機会が訪れるのなら、と過去の思い出と共にこれからおこる出来事に期待を馳せて胸をときめかせた。
「おい、あの女は…」
「風神」と名乗る男は、そばにいた付き添いの男に耳打ちをする。
「あの長い横髪だけを結んだ独特な髪の結び方…ツキビト族か…」
ひそひそと話す二人の男をよそに、女は自らの横髪を遊びながら思いに馳せていた。
すると、「風神」と名乗る男が女に、ゆっくりと近づいた。