「久世ちゃーん!」
この人は苦手だった。
人懐こい笑顔。爽やかで人々からの人望は高く、モテモテで。
そんでもって。
____何故か私に構ってきて。
『あの、なんで私に構うんですか?』
「え、嫌だ?」
『嫌って訳じゃないんです。』
私は皆が帰った教室で、夕日を見ながら黄昏るのが好きだ。
いつもは一人なのだが、今日は一人ではなかった。
隣にいるのは高倉龍輝(タカクラ リュウキ)。
私と同じクラスなのだが、あまり彼については知らない。
「じゃあ、何?」
『どうしてこんな私に構うのかと・・・。』
「・・・こんな?」
『高倉くんは根暗でネガティブな私なんかより明るい系の女の子が好きでしょう?なのにいつもなぜ構うんですか?』
いつも明るい彼のことだ。
好きなタイプだって明るい子に決まってる。
・・・なのにどうして、いつも私のところに来るのだろう。
『私に同情してくれてるのですか?私が・・・友達が少ないから?』
黙って聞いてくれていた高倉くんがプッと吹き出した。
「あははは!俺が同情なんてする奴だと思う?たしかに根暗な奴はキライだよ。でも...」
『・・・?』
私の顎をひかれ、もう少しで唇と唇が触れ合うぐらいの近距離に顔を近づけられる。
「久世ちゃんは好きだよ。」
そう言い、額にキスをおとす彼にゾクッとする。
おかしい。おかしすぎる。
違和感を感じた。
まるで形の違うピースを無理やりはめ込んだような。
彼が私のことを好きになるはずない。
『冗談はやめてください。』
「えー?俺が冗談なんて言うと思う?」
『冗談としか、考えられないでしょう。』
「どうして?」
『高倉くんが私を好きになる理由がないからです。』
キッと彼を睨みつける。
「はは。正直言って、久世ちゃんって俺の事嫌いでしょ?」
『嫌いではないです。苦手なだけで。』
「あはは、正直だなぁー。でもね、久世ちゃんは鈍感だよ。」
『はい?』
「皆久世ちゃんを狙ってる。俺も、・・・貴史もね。」
この人は何を言っているのだろうか。
やっぱり高倉くんと話すと疲れます。
なぜ急に有山くんが出てきたのかさえ分からない。
「久世ちゃんさ、この学校のマドンナって自覚ないでしょ?」
『はい、私はマドンナじゃありませんから。』
<3年、黒髪のマドンナ>
これが私についた異名。
皆してこう呼んで。私はこの呼び名が嫌いだった。
「あのねぇー。君は何回告白されたかのランキングで2位なんだよ?」
『だからなんなんですか。』
「ちなみに3位は貴史だよ。凄いよねあんな変人でも告白されるんだからさ。」
『・・・高倉くんだって充分変人じゃないですか。』
「傷つくなー。・・・そんなこと言うの久世ちゃんだけだよ?」
妖艶で怪しい笑みを浮かべる彼にクラクラしてしまう。
こうして数々の女子を堕としてきたのだろう。外見がいいことをうまく利用しているところがまた彼らしい。
あんなバカみたいなランキングの1位も高倉くんだと噂で聞いたことがある。
「なに?そんなに俺を見つめちゃってさ。もしかして惚れちゃった?」
『違いますよ。・・・高倉くん。』
「なーに?久世ちゃん。」
『・・・いえ。』
「そっか。あ、俺部活行かないと!じゃあね、久世ちゃん!また明日!」
『え?あ、さよなら。』
一体彼は何をしに来たのだろう。
本当に変わった人だ。有山くんのことを言えたもんじゃない。
確か前瀬奈ちゃんが高倉くんは裏の顔がありそう、と言っていたような。
あの人は私とは正反対。
そして話も何も合わなくて、とっても不思議な人。
でも人間は不思議なものに心惹かれるもの。
高倉くんの全てが彼の計算だとしてもそれが彼の面白いところなのだと私は思うのです。