次の日の朝、いつもより早く起きたが、いつもより遅い登校。

朝早く起きたのは、メールが届いているか確かめるため。(勿論届いてはいなかった。)

遅い登校なのは、昨日のメールを読み返すため。

まぁ、そんなことはどうでもいいが、今日の僕はとても機嫌が良かった。


それはそうだろう。昨日のメールのやりとりはあまり話したことがない、僕と彼女の唯一の会話なのだ。

昨日はあのままぐっすり寝てしまい、今朝は目覚めが良かった。



とても好調な滑り出しだと思う。





(・・・!)





この時間帯に登校している人は多いのだが、それでも人混みのなかから僕は彼女を見つけた。

この時間帯に来て良かった...!
彼女はいつもこの時間に登校していたのだろうか。





____話しかけようかと思ったが、どうやら彼女は瀬奈と話しているらしい。



あのぺちゃパイめ...!あんなに堂々と話せて羨ましいったらこの上ない。




僕はさりげなく彼女と瀬奈に近づく。




瀬奈の声はいつも大きくてこの距離でも耳がキンキンする。



「__え!?リコちゃんってあの変態が好きなの!?やめときなよ!私はアイツの幼馴染みだから言えるけどさ!」





ほぅ、久世さんの好きな人の話か。



・・・好きな人?




え、ちょっと待っていただきたい。彼女に好きな人なんていたのか?

___ちがう、問題はそこじゃない。



瀬奈の言動からするに、久世さんの想い人は<変態>。そして<瀬奈の幼馴染み>。




そう、僕しか考えられないのだ。


僕は自分のことを変態とは認めていないが、いつも瀬奈に変態変態言われている。
なにより、瀬奈の幼馴染みは僕しかいないのだ。


と、いうことはだ。


久世さんの好きな人は僕なのか?
だとしたら僕は今すぐにでも告白をするだろう。あぁ、死ねる・・・。


僕はたった今天国を味わっている。そしてそれはきっとこれからも。




____とは、ならず。



『・・・?好きではありませんよ?』






そして一気に地獄におとされる。

まぁそりゃそうか。今まで話したことないしな。


好きではないかぁー・・・。
じゃあ嫌われてるのかな。





『ただ、友達になれるかもと思っただけですよ。』








___あぁ、そういう事か。


僕は察した。
彼女は友達がほしいのだ。彼女のことだから気づいていなさそうだけど。
ずっと見てきた僕は分かる。


それを悟ったのは僕だけではなく、瀬奈もその言葉を聞くと、久世さんに優しく微笑んだ。



久世さんは大人びてて今時の高校生とは思えないからなぁ。僕が言えることじゃないけど。もしかしたら近寄りがたい雰囲気がでているのかもしれない。





そんな彼女から思わぬ言葉が飛び出した。








『あの、有山くんって変態なんですか?』






・・・ぺちゃパイめ。


瀬奈だ。絶対に瀬奈の仕業だ。
こいつが久世さんのさんに吹き込んだんだ。




彼女の言葉に瀬奈は目を見開いている。

あ、ヤバイ。アイツのことだ。
「え、今頃!?そうだよ、当たり前じゃん!」とでも言うだろう。
止めなければ。






「え、今頃!?そうだぬぐむぎゅう!」



すぐさま瀬奈の頬をつまんだ。



「ははは、そんなわけないじゃないか。久世さん、こんなぺちゃパイの言うこと信じちゃダメだよ?」




瀬奈は僕にほっぺをつままれているので「むぎゃ!あんひゃ、なんふぇいるのほ!」などと何語か分からない言語を叫んでいた。



『ゆ、有山くん!?いつの間に!?』




それはずっと前から。君たちの話を盗み聞きしてたんだ。


などと言ったら冷ややかな目で見られかねない。




「ぷはぁっちょ、なんでアンタがここにいるのよ!てか、ぺちゃパイ言うな!この時点でセクハラしてんじゃないのよ!」



やっと解放してやったというのに、セクハラ扱いか。いつからこんな生意気に育ってしまったんだろう。




『おはよう久世さん。驚かせてごめんね。おい、そこのぺちゃパイ何久世さんに吹き込んでるのさ。その胸揉んでやってもいいんだぞ?』





その言葉を放つと、久世さんは驚愕の色を浮かべて「コイツは誰だ」とでもいうように見つめてくる。


まぁ、久世さんには僕の全てを知って欲しいから変態を隠そうとはしない。
まぁ、これは僕の綺麗事だし、僕は変態だなんて認めてないけど・・・。

僕はいつもの癖で、メガネをクイッとあげる。




「リコちゃん聞いた!?これがコイツの本性なんだよ!セクハラばっかしやがって...変態って言うより頭イカレてるんじゃない!?外見は真面目なくせに!」



なんて失礼なんだ。
僕は内面だって真面目な性格だし、頭はイカレてなどない。それにセクハラだってした記憶などない。あったとしてもそれは言葉のセクハラという軽いものだ。そのことに関しては認めよう。



余程ぺちゃパイ扱いが嫌だったのか、
瀬奈は僕の事をグーパンチで叩いてくる。

・・・全然痛くなどないが。



久世さんに目をやると、目があったもんだから彼女に向けてニッコリと微笑む。

そしたら彼女も戸惑ってはいるものの微笑み返してはくれた。

流石この学校のマドンナ。
とてもキレイだった。



『そんなことより。もう予鈴がなってしまうよ?早く校舎に入らないか?』



「そ、そうですね。」











____少しずつ。少しずつでいいんだ。

まだ僕にはわずかばかりの時間が残されているのだから。