一生懸命笑おうとする彼女の姿に両親はただうなずくしかなかった
否かける言葉が見つからなかった

あの日彼女はもうすぐ小学生になるの家族ででランドセルを見にきていたのだった
あの後サプライズで祖父母からランドセルを貰う予定だったのだ
そう電話していた相手はこっそりサプライズを計画していた祖父母だった
孫娘の喜ぶ姿が見たくて
なのに
自分がこんな計画を立てたばかりに、立てなければ彼女は死なずにすんだのかも
ただ無念さだけが残る

ふと椅子から立ち上がった祖父母は病室を出てしばらくすると大きな包みを持って戻ってきた
それはあの日彼女に手渡されるハズだった待ち望んだ赤いランドセル
彼女はそれをみると両手を挙げて喜んだ
一回転するとランドセルを背負い黄色の帽子をかぶった姿に変わった
それはずっと家族が見たかった姿だった
母親は

ママ、蛍の好きなケーキ頑張って作るね、楽しみにしててね

と涙ながらに笑いかけた
女の子は微笑み返すと近くの壁にもたれ掛かり腕を組んでいた退魔師の方に体を向け

お姉さん、私の家族を苦しめた犯人を懲らしめて!

と涙をこらえながら訴えた

承知

とだけ答えると肩に止まっていた式神の鳩をどこかへ飛ばした
しばらくすると鳩は白いドレスを着た女性を連れ戻って来た
女性は女の子の目線へと屈むと

お姉さんと少し話をして休んだらママと一緒にいられるよ

と語った
それは同時に終わりを告げるものだった
女の子はママおやすみなさいと言うと女性と一緒に部屋を出て行った
机の上には主のいない新しいランドセルが太陽の光を浴びて光っていた
退魔師はゆっくりお休みと呟くと部屋を後にした
背後で家族のありがとうが風によってかき消された
廊下では軍服の退魔師がお疲れと言いながら退魔師の頭を撫でた

廊下に
下駄の音がカラカラとなりやがて消えた
あの後笹川家では主役のいないお祝いがあったそうだ
多分それは彼女にも届いているだろう

蛍はいつも側にいるから大丈夫

とランドセルを供えた仏壇に母親は手を合わせて答えた



その後笹川蛍ちゃん誘拐殺人事件は動きがあり大きな展開を見せた
犯人が青い顔で出頭してきたのだった
事情調書で男は枕元に毎晩女の子が現れると話ていたらしい
後日男は刑務所で首を吊り自殺した
犯人死亡のまま書類送検された
後に新聞の記事に小さく載っていた
それは彼女の意思なのか
今となっては分からない
雨が降ると思い出す

まるで昨日の出来事のように


私は神川冬美(仮)(元享年7)
死因
鉄骨の下敷きになって死んだ
はずだった
この物語の主人公、後の退魔師白虎
その日は朝から雨だった
警視庁で僕は
退魔師さんは霊体だから濡れないですよね
と冗談混じりに言った
すると女性の退魔師が見回りをしてくると言って部屋から出て行った
保護者みたいな人が彼女の前でそういう話はしない方がいいと教えてくれた
これから話すことは独り言だから聞き流してくれと言った
少し雨音が強くなった気がした
保護者の名は神水雪、平安時代から代々続く陰陽師今の退魔師の家系に生まれた
兄弟とも退魔師で雪は通り名を東の青龍、神水空は南の朱雀神水アキラは北の玄武と名乗った
軍服の男性(後々本当は女性だった)は神水家をサポートする同じく名家の家柄で李蓮華、通り名は鵺という

退魔師は元々無式家を筆頭に5つの家柄3つの部隊に別れかれていた
神水家、李家、雪の義理の妹が所属する東宮家、報告や偵察武器の札作りを専門とする無式家、東北を主に拠点に持つ青葉家、西日本を拠点に持つ天宮家で成り立っていた
通称5東神3人称が1人
表向きは公務員警察官として扱われていた
そしてどこの部署にも属してないため特殊として動いていた
このときはまだ見ぬ白狐の代わりに天照の加護を受けていた
しかしながら若き退魔師たちはただただ経験も浅いまま戦場にたちドールらをあの世に送り返していた
送り返すのにも霊力を大量に使うため常に3人一組で陣を組まなければならなかったため最低1日5送り返すのがやっとだった
普通に退魔師としての見回りもあるため毎日が限界に近い状態だった
そんな時事件は起こった
体力や霊力が完全に戻らないまま日曜だからって事件が起こらないとは限らないという理念でその日も見回り先でドールを発見し追尾していたときだった
普段霊体状態では生きている人間にはまず見えないようにしてあった
だが何の運命か公園でボール遊びをしていた女の子がとびだしてきて走ってきたトラックに人形は体当たりして荷台に乗っていた鉄骨を女の子に向けて落としたのだった
すり抜けるはずの人形が車に接触したことに驚いた雪は
とっさのことで体が動かず彼女は亡くなった
しかし天照は普通の人間を巻き込んだことに深く嘆き自分の力を彼女に分け与えた
力を貰ったことで一命はとりとめたが彼女の人生の歯車は大きく変化した
掟により彼女は退魔師として
西の白虎として覚醒した
元々霊力が優れていた彼女はメキメキとその才能を開花させた
他の退魔師とも折り合いがよく彼女の存在は周りを刺激し今までの仕事の改善するべき点を次々見つけ活動しやすくなっていった
彼女はサポート役が自分の盾になることを嫌い先に進みながらも共にたたかう道を選んだ
仕事としても、人としても彼女のカリスマ性はなくてはならないものになった
彼女の家族には告げず仕事の時は身代わりに式神を使わせた
だからこそ彼女に甘えていたのかもしれなかった
過信していたのかもしれない
その出来事は何の前触れもなく訪れた
それはいつものように人形退治を執行していた時だった
その日は普段より倍の数の人形相手に少し戸惑い時間がかかった
すでに精神体力供に疲労困憊の彼らは見逃していた
敵も毎回の事に学習したのだろう
一体のドールが包囲網の網から抜け出したのを
気付かなかった
一瞬の油断とはまさにこういうことだろうか
突然のことで力を使い果たした白虎はその場から逃れることができずギュツと目をつぶった

なにも起こらずおそるおそる目を開けると天照が自分の身代わりに人形の一撃を受けていた
退魔師は契約で死後魂が消滅することになっている
自分をおくった亡者にとりこまれないにするためである
よって退魔師は霊体になることも生まれ変わることもできなくなる
神々は転生することは可能だったが今回人形ぎ相討ちとして選んだ武器は地獄に保管されていたはずのたった1つしかない道化師の槍だった
これは退魔師の死後よりも最悪の武器で刺されたものの存在すら消してしまう恐ろしい凶器である
天照は最後の力を振り絞って人形に渾身の霊力を叩き込んだ