「ん……飲まないのか?」



「水分制限とか色々面倒だから」




理久は詩月の手から缶ジュースを受け取り、その手の熱さに息を飲む。




詩月はサッと手を引っ込め、纏めた楽譜をファイルにしまい鞄に入れる。




「お前……そんな熱で!? 」




詩月は、鞄とヴァイオリンケースを肩に抱え、ゆっくりと無言で立ち上がる。




「詩月?」




背を向け、ホールの出口へ向かう足取りが、どこか危うい。





理久が腕をとり肩を貸そうとすると、詩月は「Non」と小声で拒む。




ホール出口で妹尾が、詩月を見つめている。




「お疲れ様」



詩月は平然と会釈し、通り過ぎる。




「待ちなさい、何か言いたいことはないの?」




金切り声のような妹尾の言葉に詩月は振り返る。




「音楽は人を蹴落とすための道具ではない」



呟いて踵を返す。




「!? 待ちなさい」