コンマスは話終えて、顔を上げ、照れくさそうにフッと笑った。




「笑いませんよ。

俺の通っていた高校には、竪琴を背にした男神像がありました……」




「竪琴を背にした……」




「貢は……友人は、オルフェウスって呼んでいた」




「へぇ……」




理久は安坂から、先日も詩月がガセの練習連絡をもらったことを聞いている。



気落ちしていると思ったがオフィス街で、詩月はベートーベンの「ロマンス2番」を弾き、その凛とした弾き姿が、オルフェウスに見えたことも――。




「周桜は、……彼は見た目、凄く頼りないし、あんなに凄い演奏をするなんて、とても思えないんだがな」



「ですね……、老婆心なんて必要ないですね」




「ああ」




2人は目を細め詩月の様子を見つめる。




「シヅキ、お前ならモット上手くヒケル」



指揮者の節くれだった大きな手が、詩月の頭をふわり優しく撫でた。