「あれ、彼女は……」




「おそらく……1人で耐えてるはずだ、悔しさと怒りにね」





「まだ……」




「彼女は彼が、いつか根を上げると思ってるのかも。

……笑わないでくれよ。

俺はさ、彼はローレライではなくオルフェウスだって思ってるんだ」




「オルフェウス?」



「ああ、オルフェウスはアルゴー船探検隊(アルゴナウタイ)の一員としてヘラクレスらと共に航海に加わったんだ。

人を歌声で誘惑し、遭難させたり、難破させて殺害する妖女ローレライ(セイレーン)に歌合戦を挑み勝利し、一座を鼓舞し、無事に海峡を渡ったっていうオルフェウスの神話がある」




「冥府に妻を迎えに行ってって話しか知らないけれど」





「うちのオケは、ずっと沈没寸前の難破船だったと思う。

いくら演奏してもチームワークが乱れて纏まらない。

次は誰が苛めに合うのか……ずっと怯えて道標を失っていた。

周桜が今、懸命にローレライと向き合い戦っているオルフェウスなんだろうと思うんだよな」