「実際、翌日から調子を崩したメンバーがかなりいた。

弾いていると、彼の演奏が繰り返し聞こえて弾けなくなるって……」




「……そんな」




「だけど、その独特の音色が練習を繰り返すごとに心地好くなった。

ずば抜けて凄い演奏なのに、でしゃばらない」




「合わせやすいってことですか」



「そうなのかな。彼に導かれているって感覚か……。

でも妹尾の苛めは日ごとひどくなって……。

彼女にとってはさ、彼は未だにローレライなんだろう。

コンマスを降ろされた張本人だしな」



「とばっちりだ……」




「そうだな。

彼女のわがままや苛めに振り回され、ノイローゼになった奴らにとっては、彼女がローレライなんだろうけどな」




理久は辺りを見回し妹尾を探す。