「ローレライって知ってるか?」




「ローレライって……ライン河の、あの!?」




「ああ、航海する船乗りを歌声で惑わし、難破させる……

色々と説はあるが、ポピュラーなのは不実な恋人に絶望し、ライン河に身を投げた乙女が水の精になり、

漁師や船乗りを誘惑し破滅へ導くという説」




淡々と詩月をみつめながら話す。



「ローレライはセイレーンという上半身が人、下半身が鳥の海獣の一種だとも言われる。

……初顔合わせで彼が『Jupiter』を演奏した時、ローレライだと思った」




「えっ!?」




「彼の音色はさ、聴いた者を惹き付けて離さない。

1度聴いたら忘れられない。

……自信を叩きのめされ、震え上がらせるほど圧倒的で、……自分の演奏ができなくなる。

どう弾いていいか見失ってしまうほどの……」




理久は食い入るように、コンマスの話に聞き入る。