逞しいというか動じないというか……。


女性の方が打たれ強いのかもしれないと詩月は思う。



逞しい女性――。

詩月は万葉の歌姫を思い出した。



歌人として有名な額田姫王の、波瀾万丈の人生。


高校受験前まで、詩月のヴァイオリンの師匠をしていた女性リリィが無類の古典好きだった。

詩月は彼女から、ことあるごとに万葉集の歌に纏わるエピソードを聞かされた。

師匠と共通の話題についていきたくて、万葉集は彼女にヴァイオリンを習い始めた頃から、詩月の愛読書だ。

額田姫王は万葉集や百人一首にも名を列ね、恋多き女性としても知られる。



飛鳥時代の歌人だ。


『日本書紀』には、鏡王(かがみのおおきみ)の娘で大海人皇子(天武天皇)に嫁ぎ、十市皇女を生み、後に中大兄皇子の後宮に侍ったと記されている。




万葉集には額田姫王の歌が、12首掲載されている。



万葉集に(巻1ー20)


茜指す紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(額田王)


「大意」

まあ紫草お栽培されている標野を行きながら、そんなことをなさって、野守が見るではありませんか。

あなたはそんなに袖をおふりになったりして。