緒方郁子と詩月は同学年で高校では2年、3年とクラスが一緒だった。




ピアニスト志望の郁子とは音楽を通して話も合ったし、音楽以外の教科でも学力を競ったライバルだ。




詩月は彼女と浮いた会話をした覚えがない。




一昨年夏。

詩月は安坂と幼なじみの岩舘理久、緒方の3人で夏祭りに行った際、何気なく手を繋がれた。

その程度だった。




付き合いたいとか、特別一緒にいたいと感じたことはない。



意識しないと言えばウソにはなる。



緒方の隣には、いつも安坂さんがいる――詩月はそう思っている。



郁子の気持ちがどうなのか、考えたことさえない。




美人と言われても、詩月には関係なかった。




「あれは、相当疎いタイプだな」



Xceon体育会系の遥が、詩月の後ろ姿を見ながらクスッと笑った。