郁子は、詩月が転校してきた日の仕草を再現してみせる。


髪を鬱陶しそうに掻き上げ、見つめる視線を一瞥し、さりげなく逸らし、声音まで真似て……。



理久は、その様子があまりにも似ていて、感嘆する。



「上手いな」


朗らかな郁子の笑顔に安心する。


いつも通りの郁子。

理久は、空元気ではないと思いたかった。



「化粧品の秋CM。
Xceon(エクシオン)と周桜詩月、コラボしないんだって」



Nフィルの音合わせに向かう電車の中。

詩月は乗客の会話を 耳にする。



「新マネジャーが、みなとみらいのコンサート後、コラボを断ったんだって」



「どうして? あのCMシリーズ、春も夏もすごく人気で、ポスターもステキだったのに」