「周桜くんのお母さんって、すごく綺麗な日本語を話すけど」



「あの人の日本語は、詩月の親父さんが教えたんだろうな。
近所付き合いも、ちゃんとしてるしな」



「ふーん、ちょっと意外」



「そうか? 詩月もあー見えて、近所の評判いいんだよな。
ヴァイオリン教室の生徒が、休みに宿題持ってきたり、近所の親から頼まれて勉強を教えたりしてるからな」



「周桜くんが? イメージが違う」



「どんなイメージだよ。
まさか、ポスターみたいなとか言わないよな」



郁子は笑って誤魔化す。



「信じらんねぇ。詩月のあの音を聴いて、そんなイメージする方が不思議」



「周桜くんって、自分のことをほとんど話さないんだもの。
転校してきた日なんか、クラスの質問攻めを一掃したのよ。
たった一言で、こんな感じで……『静かにしてくれないか、何もこたえたくない』って」