郁子の赤くなった目に涙が溢れる。



懸命に涙が零れるのを堪え、「周桜くんと同じ位置に?」と聞き返す。



「ああ、詩月がライバルと認めてる唯一のピアノだ。
追いかけていけ、あいつの手に届くまで。
あいつと肩を並べるまで、いや……あいつを脅かす存在になれ」



郁子は大きく頷いた。


溢れる涙で雑誌の記事が滲む。



「ったく……俺が泣かせたみたいだろ」



理久が口を尖らせぼやく。



「あいつと遊園地とか、デートスポットへは行かないのか?」



理久は言いながら、封筒を差し出す。



「猫展のチケットだ。
バイト先でもらったからやるよ。あいつを誘って行けよ」




「あ……」



「どうした? あいつは思ってるほど、堅物ではないぞ。
あいつの家には、あいつにしかなつかない猫もいるんだ」