「額田姫王は斉明天皇が朝鮮出兵した時、戦地に赴く決意表明と士気をあげるために、歌を詠んだんだ。
万葉集にある歌だ。 
 『熟田津に船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな』
熟田津で、船出をしようと月の出るのを待っていると、月も出、潮の具合もよくなった。
さあ、今こそ漕ぎ出そう。
詩月は、お前が詩月に言った『希望はあなたの意志から生まれる』を、この歌みたいだって言う。
何もかも自暴自棄になって、聖諒に転校してきた詩月をお前の『希望は』が、あそこまで前向きに変えたんだ」



郁子は唖然としたまま、理久を見つめている。



わたしが!? と言いたげに口を微かに動かす。



「自信を持て、郁子。

お前なら、詩月に追いつける。

あいつと同じ位置に立てる」