「昨秋のヴァイオリンコンクールの頃には、もう考えていたんだろう。
国際コンクールのことは」



「そんなに前から」



理久は、俯いて雑誌を見つめ、顔を上げない郁子に、更に続ける。



「今は届かない所にいても、再来年には同じ位置に立とう、そうは思わないのか。
『追いかけて来い』とまで詩月に言わせても、まだメソメソしているのか」



「理久!?」



「1度は諦めた留学、止めようとまで考えていた演奏家の道を、お前が『諦めるな』と引き戻したんだろう。
そのお前が、そんな風でどうするんだ。
メソメソしてる間に詩月は更に、先へ行くぞ」



郁子は顔を上げ、赤くなった瞳で理久を見る。



「学園伝説の像、詩月は願掛けをしているらしい。
何を願ったのかは聞いてない」



「周桜くんが願掛け?」