雑誌の上に置かれた郁子の手が、微かに震えている。



「周桜くんが留学……」



ポツリ呟く。



周桜くんが、本当に手の届かない所に行ってしまう。



――周桜詩月の音色は、日本に留めておくには狭すぎる。
彼の才能は海外にあってこそ磨かれる。



雑誌に書かれた、締め括りの言葉が胸を抉る。



「わかっていたことなのに、周桜くんは……いつか留学するだろうって……」



「ウジェーヌ・イザイとかいうコンクールに挑戦したいらしいぞ」



「……3大コンクール」



「来年がヴァイオリン、再来年がピアノなんだってな」



「あっ……」



――届くまで追いかけて来い


郁子は詩月に抱き寄せられ、詩月に言われた言葉を思い出す。



「たしか、あいつ言ってたよな。
お前と連弾した時、『追いかけて来い』って」



理久が意地悪そうに口角を上げて言う。