周桜くんの実力は、わたしの手が届かない位置にある。



郁子が、そう思った矢先。


店内から女子学生の会話が、聞こえてきた。



「周桜さん、留学するみたい」



「留学って、大丈夫なの?
実力は問題ないと思うけど、あの人って体が……」



「図書室で留学申請の書類を書いてたから、間違いないと思う」



「書類を覗きこんだの?」



「だって、周桜さんの書き方って独特なんだもの」



「独特!?」



「紙の上下を逆さまにして、文字を左手で逆さまに書いていくの」



女子学生が机の上で実演しながら話す。



「うわ――っ、書きにくそう」



「だけどね、すっごく美文字なの。びっくりしちゃった」



「信じられない。
でも、なんで図書室で?」



「ドイツ語? の書類と辞典かな、机に広げてたよ」