「……Meister Danke scn.(ありがとうございます)」



詩月はマエストロを見上げ、握手を求め、右手を差し出す。



マエストロは詩月の右手を優しく握り、詩月に語りかける。



「シヅキ。君の音は、もっと伸びる。

君なら、もっと大きな舞台を目指せる。

シヅキ。10月の契約が切れた後、私は国に帰る。

シヅキ。ウィーンに来ないか?

ウィーンで学びながら、オケで弾かないか?」



「……Meister」



「君も知っている通り、ウィーンは音楽の都と言われる。
音楽を受け入れる土壌も然り、民衆が音楽を聴く心を持っている。
街角や街頭で演奏をすれば、それを最大限に批評もし、称賛もする。
音楽家、演奏家を育てるのはただ、優れた環境や勉強、練習、指導者ではない。
民衆、聴衆が育てるものだと、私は思っている」



「……Meister」